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アメリカ発、日本のメンズファッションを知り尽くした男

かつてアイビーの歴史から裏原宿カルチャーまでを、これほどまでに取材を重ね、文字化したジャーナリストはいなかったはず。ましてやそれがアメリカ人だということも興味深い。“みゆき族”に始まり『A BATHING APE』の大流行までを研究、分析した『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語』の著者でファッション・ジャーナリストのデーヴィッド・マークスさんの自邸にお邪魔して、日本のメンズファッションへの関心やデニムにまつわるお話を取材しました。

日本オリジナルのアメリカンファッションに衝撃

デーヴィッド氏はフロリダ州・ペンサコーラ出身。ここは岐阜県下呂市萩原町と姉妹都市にあり、その縁から1996年(デーヴィッド氏が高校3年生)に日本語を勉強するために日本へホームステイ。ハーバード大学の東洋学部に入学してからも日本への関心は高まり、在学中の夏休みに大手出版社の講談社でインターン目的で再び来日する。「『Hot Dog PRESS』編集部で当時好きだった日本のミュージシャン、コーネリアスに関連した猿の惑星をモチーフにした『A BATHING APE』の紹介記事を見て、すぐに原宿の旗艦店に駆け込みました。そして、そこで見た光景が衝撃的でした。たった1枚のTシャツを買うためにお店に入るまでに3時間並び、在庫の補充もなくまばら。お店の場所は人目につく大通りではないし、少し外れの裏通りで看板も一切ナシ。それでも大勢の若者が並んで苦労してTシャツを買うという光景がとにかく不思議で、この独特のカルチャーに強く興味を抱きました」

卒論のテーマは「APEの売り方」

「そこで思いついたのが「APEの売り方」を大学の卒業論文のテーマにすることでした。アメリカでは、そもそもTシャツというのは25ドルという固定観念がありましたがAPEのTシャツの定価は約3倍。このマーケティング手法は斬新なものでした。広告宣伝費を使わずに内製でブランドが発信するという、今となってはスタンダードになったこのやり方が、当時のアメリカでは非常識なものでしたから、かなりセンセーショナルでしたね。その後、社会人になってから『VAN JACKET』出身の人に偶然お会いする機会があり、ちょうどアメリカで『TAKE IVY』の英語版が出版されるタイミングも重なり、石津祥介さんに会って当時の裏話を色々と聞いて、せっかくなので本にしたら面白いかと思い、知人の編集者に話したらアイビーだけじゃなくて日本のメンズファッション全般について書くことを奨められました。アイビーから裏原カルチャー、ジャパンデニムと幅広く」

マイヒーローは『AMETORA』の人たち

リビングや書斎の棚に収まる貴重なアメトラ関連の古書。今となってはすべてが“お宝級”の資料だ。「日本在住のアメリカ人の中では詳しい方に部類されるかもしれませんが、日本人の探究心や知識には敵いません。アメリカでも、ここまでアイビーやデニムの歴史に詳しい方は少ないのではないでしょうか。収集しているアメトラ関係の本は『メンズクラブ』や『男の服飾』が多いです。このアウトドア雑誌『スキーライフ』は、日本で4~5万円の価値ですが、アメリカでは14万円で取引されていました。ちょっと異常なプレミアですが(笑)、海外でもアメトラ文化は注目されています。僕のヒーローは著書『AMETORA』に出てくる皆さん。ものすごく尊敬しています。良い意味でまわりを気にせず自分勝手に創作していて、それまでの既成概念を壊して時代を作った人たち。だから、いつか書きたいと思っている本のテーマがあって、それは“日本人は実は個人主義者”というテーマなんです(笑)」

故きを温ねて新しきを知る

日本のメンズファッション史を語る上で、国産デニムブランドの台頭は欠かせないとデーヴィッド氏は話します。「カイハラは絣生地や藍染などの伝統があって、新しいアプローチをしています。90年代前後から誕生した多くのレプリカ系、ヴィンテージ風の国産デニムブランドがそうであるように、伝統の考え方を持って新しいデニムを研究、開発するという、そうした突き詰めた考え方が日本人の素晴らしいところだと思います。それこそ当時の雑誌『Boon』デニム別冊号など、これだけ情報量の詰まった雑誌が、普通にコンビニなどで売られていたというから日本人の興味には驚きです。個人的には岡山発のブランド『TUKI』のデニムが大好きで、デザイナーの原田さんと一緒にカイハラの工場見学にも行ったことがありますよ。彼はデニムの歴史にも詳しいけど、いわゆるレプリカを作るブランドではなく、オリジナリティ溢れるデザインやソースが込められています。ミニマルな精神でモノづくりをされていて素敵です」

PROFILE
デーヴィッド・マークス
服飾評論家、執筆家

1978年オクラホマ州生まれ、フロリダ州育ち。2001年ハーバード大学東洋学部卒業。2006年慶應義塾大学商学研究科修士課程卒業。日本をベースにファッション・ジャーナリスト、エディターとして活躍する一方、某企業のフロントマンとしての顔も持つ。主な著書に『AMETORA 日本がアメリカンスタイルを救った物語』(DU BOOKS)。

Instagram:@neomarxisme

HP:neomarxisme.com

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