BARBER BOYSのオーナーでヘアメイクもされる樅山さんによる連載企画、「映画とデニム」。映画やファッションにも造詣が深く、デニムの魅力が存分に味わえる映画をコラムと共に紹介します。

アイリッシュマン／マーティン・スコセッシ監督作品／2019年公開

アルパチーノがシャンブレーシャツを着るとドレスシャツに見える。

過去の実話を現代的にアップデートして、スィング・ジャズのようにテンポのいいマフィア映画を作るマーティン・スコセッシ監督。ニューヨーク市マンハッタン区のリトル・イタリー出身でマフィア予備軍に囲まれて育ったから、描写がめちゃくちゃリアル。90年「グッドフェローズ」95年「カジノ」と、え〜っ！！マフィアってこんなことやっちゃうのー？って、毎回、度肝を抜かれる。2019年「アイリッシュマン」もスゴかったねぇ。全米トラック運転手組合委員長ジミー・ホッファとマフィア、そして間に入り、殺し、爆破、誘拐と何でも請け負うアイルランド人フランク・シーランの実録映画。アメリカの物流がほとんどトラックに頼っていた時代の組合ボスだから、大統領の次に権力があるって言われてたんだ。だってストライキやったらアメリカの産業止まっちゃうから！それほど重要な組合がね、ストライキ始めちゃうとマフィアが必ず止めに来る。株主や経営者に雇われてね。日本もですよ！82年の映画「鬼龍院花子の生涯」あの美しい夏目雅子さんのヌードで話題になった仁侠映画でも、国鉄がストライキを始めたところに仲代達矢さん扮するヤクザ鬼政が乗り込んで行ったでしょう…、長くなるのっ？なるね、やめます。たいがいは、脅されドヤされビビる→唇とかヒザとか至るところが震える→恐くて心が折れる→ストライキ中止！って図式。ところがこのジミーって男、全くひるまないの！何だったら、逆に脅したり、殴り掛かったりしちゃうわけ。マフィア側も手を出せない。権力者だし、度胸もあるしでコントロール出来ないから、一目置くようになって、取引するしかなくなるの。ここからジミーとマフィアはズブズブの関係に。お金をもらったり、面倒なことがあったら、お金をあげて解決してもらったりと…。癒着がエスカレートして、当時200万人いたトラック組合員の年金をマフィアに渡し、ラスベガスにホテルを建て、運営させ儲けてたんだから、とんでもないね。それを知ったケネディ大統領がジミーを潰しに掛かる。これ全部、実話だからね。61年、弟のロバート・ケネディ司法長官が年金不正運用疑惑を追及。結果ジミーは有罪。67年に収監。68年、ロバート・ケネディ暗殺。63年にケネディ大統領も暗殺されてるから、関係があるのか？無いのか？謎が謎よぶ殺人事件…。戻します。ジミー・ホッファ役のアル・パチーノが刑務所で着ていたのがシャンブレーシャツ。白糸がデニムよりも表にくる割合が多くて、見た目軽やか。色ムラがイイ感じだけど繊細、織にひと仕事してあるから奥行きがあり、良く出来た実用的な作業服なんだ。ジミーが着るとドレスシャツに見えて、格好良い。彼はビジネスや集会でのスーツ姿に、着せられちゃってる感がない。リラックスして見えるし、数多くの修羅場をくぐり抜けてきた余裕もあるから、味方だと安心、敵には威圧感を与えると思うよ。くつろいだ格好のパジャマやスウェットでもだらしなく見えないのは、凛として緊張感があるから。Netflixで是非観て。男の理想型じゃない！30歳過ぎたら己を律する規則を持って、いっぱしの大人に少しづつ近づきたい。もちろん外見を気にする洋服好きで内面の充実ってのが絶対条件だけどね。いい歳をした大人がズタズタの楽な格好で出掛けるのはみっともないから。ピカピカした薄っぺらな光沢も要らない。モテる服とか言ってる男、この世にそれを着ただけでモテるという魔法の服は存在しないよ。「こんな格好がモテますよ」とかショップ店員言われて、買って着ている男がモテはじめたって話、聞いたことがない。女はキッチリ見切ってる！「なめたらいかんぜよー！！」夏目雅子さんが夫の納骨をぶん取りに行ったときの有名なセリフだよ。あれっ？鬼龍院にまた戻ったなぁ、トホホ…。

番外編 〜Spotify〜オレのサントラ「アイリッシュマン」

映画のみならず、音楽にも詳しい樅山さん。ここからは番外編、『オレのサントラ「アイリッシュマン」』と題した、同映画の世界観を踏襲した10曲をセレクト。今回は1950年、シカゴで設立したブルース、R&B系のレーベル「Chess Records」からの選曲しています。ぜひ、お聴きください。