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写真でも油絵でもない、デニムで描く現代アート

デニム生地は、ジーンズをはじめ、さまざまな衣料の素材として用いられてきました。そして今では衣料だけでなく、自動車や家具など、幅広いプロダクトに採用されています。そんなデニム生地ですが、アートにまで昇華させたのは稀有な例でしょう。イギリス出身のイアン・ベリーは、デニム生地を使った作品で知られる世界的なアーティスト。今回は彼のインタビューとともに、その奥深い作品世界を探っていきましょう。

インディゴブルーで現代を描く

1984年にイギリスで生まれたイアン・ベリー。彼が生み出す作品はインディゴブルー一色に彩られています。遠目に見るとまるで写真か油絵のように見えますが、近寄って見るとすべてデニム生地を切り貼りして作られていることがわかります。デニム生地ならではの色落ちが生み出す濃淡、そして味わい深いテクスチャーが、彼の作品を唯一無二のものにしています。デニム生地を作品に使う理由を彼はこう語ります。

「私は作品を通して現代の生活を描写しています。そして、今の時代を象徴するものとして、デニムの右に出るものはありません」

彼の言葉通り、作品にはパブやコインランドリー、ニューススタンドなど、現代の日常風景が描かれています。

「私の作品はデニム生地で作られていることが注目されがちですが、私自身は現代のコミュニティに内在する問題を作品を通して提示することを意図しています」

イアンが感じたデニムの持つ力

その一方で、「Behind Closed Doors」という一連の作品では、ドアの向こう側にある何気ない日常を描写。そして、「CCTV」というシリーズでは、ロンドンの地下鉄や街並みを緻密に描き出し、まるで顕微鏡で覗いているかのように人々の暮らしを俯瞰する独特な世界観を表現しています。

作品に対する想いをイアン・ベリーはこう語ります。

「私は15年近く作品を作り続けていますが、当初はもっと抽象的な方向に進んでいくと予想していました。しかし、実際は、より詳細で写実的なものになっていきました。その分、多くの時間と労力を制作に費やすようになりましたが、それが高い評価につながっていることを光栄に思っています。何より、嬉しいのは、私の作品に対する人々の反応を見られることです。以前に開催した『Behind Closed Doors』の個展では、作品を見て涙を流す人がいるなど、多くの人がとても感情的になってくれました。また、通常、そのギャラリーでは多くの人が5分ほどで退出するそうですが、私の個展では1つの作品に5分かけて見て回る人が多かったと聞き、とても嬉しく思いました。そのように反応してくれるのは、私のテーマ設定やハードワークだけが要因なだけではなく、デニム自体に人々が引きつける何か特別なものがあるのだと考えています」

みんなのためのデニム

イアン・ベリーはデニムという素材についてこのように考えています。

「デニムはみんなのためにあり、アートもみんなのためにあるべき。私はそのように以前から主張していました。しかし、このアートが広がりを見せたことで、時として、それが仰々しく、尊大で閉鎖的なものになってしまうことがあることも学びました。しかし、現在も私個人としては、デニムはみんなのためのものであるという考えは変わっていません。気軽に着用して楽しみ、爽快な気分になれるのがデニムですから」

イアン・ベリーは小さな作品から、80インチを超える大作まで、さまざまなサイズの作品を制作しています。その理由について、彼はこう語ります。

「デニム生地のサイズが作品を規定するケースもあります。私はできるだけ作品を写実的に見せたいため、ジーンズのシームまで細かく配慮して作品を構築しています。また、細かいパーツを重ねた時にできる影の部分が好きではないため、ポートレート作品を作る時は生地を大きく取ります。そのため、作品自体が大きくなる場合もあります。サイズが大きいほど時間がかかり、骨の折れる作業にはなってしまいますが」

デニム の可能性を広げたインスタレーション

キャンバス作品だけでなく、インスタレーション作品もイアン・ベリーの重要な表現方法のひとつです。

「私は個展に何か新しい要素を付け加えるため、早くからインスタレーションに取り組んできました。最初はニューヨークの街並からニューススタンドが消えつつあると感じ、「News Stand」という作品を制作しました。さらに、このアイデアにコインランドリーという要素を付け加えて作品にし、最終的に最大級のアートフェアであるマイアミバーゼルで披露することができたんです。続いて取り組んだのが、「Record Store」という作品です。デニムと音楽の関係性、そしてジーンズの成り立ちやジーンズと歩みをともにした数々のバンドとの関係性についても表現したいという思いから制作しました。ニューヨークで展示した「Secret Garden」という作品では、作品の中を歩き、インタラクトできるインスタレーションとして、人々の注目を集めることができました。私は色々な要素をミックスすることがとても好きなんです。デニムは万能で融通が利く素材だとよく言われていますが、まさしくその通りですね。

挑戦し続けるデニムアーティストのこれから

イアン・ベリーは今後の展開についても意欲的に語ります。

「私の作品は、今後、よりダークな方向に向かうことになると思います。現在は、「Hotel California」という新しい作品を制作中です。地下鉄のメタリックな反射やタイル張りのフロア、プールの水など、デニムを使って光をより鮮やかに表現することに挑戦しています。しかし、ザ・イーグルスの曲と同じように、作品のテイストは、ロサンゼルスのホテルみたいに明るく単純明快なものではありませんが」

アートを通して、デニムの可能性を大きく広げていくアーティスト、イアン・ベリー。彼の活動に今後も注目していきたいと思います。

Ian Berry DENIM ON DENIM

今までに制作した作品を掲載している写真集「Ian Berry DENIM ON DENIM」。彼のホームページより購入可能です。

6月30日よりロンドンにてカリフォルニアをテーマにした展示会が行われます。必見です。

http://www.ianberry.org/blog/2019/6/17/ian-berry-hotel-california-london-solo-show

PROFILE
イアンベリー
美術家

1984年イギリス・ハダースフィールド生まれ。デニムを使った現代アーティスト。日常の風景の一場面を切り取った作品からファッションデザイナーのジョルジオ・アルマーニ、F1レーサーのアイルトン・セナなど著名人のポートレート作品も制作。各方面から賞賛されている。

HP:http://www.ianberry.org

Instagram:@ianberry.art

 

 

 

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