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今、世界中で最も注目されているジーンズ

アインシュタインの言葉に「未来を知りたければ、過去を振り返ること」とあります。未来のデザインへのヒントが詰まった秘宝のようなジーンズが、探検家、発掘者、ディーラーの手を渡り、オークションで高額をつけました。舞台はアメリカ・ニューメキシコ州のヴィンテージフェスティバル。最終的な購入額が87,400ドル、日本円に換算すると約1,300万円を記録。廃坑で見つけられた130年以上前のリーバイスのワンポケット・バックルバックジーンズです。落札者に世間の注目が集まるなか、共同購入をしたジップ・スティーブンソン氏の訪日中に話を聞くことができました。

サンディエゴを拠点にするヴィンテージディーラー、23歳のカイル・ハウパート氏が費用の90%を、残りを、ロサンゼルスを拠点にヴィンテージクローズ業界で長い経験を持つジップ・スティーブンソン氏が出資し、協力してこの博物館級のジーンズを落札しました。以来、二人にはメディアやバイヤーなど各所からひっきりなしに連絡が来ると言います。CNN、FOXニュース、ウォールストリートジャーナル紙、ガーディアン紙をはじめ各国メディアでこのニュースが繰り返し報じられる中、訪日を果たしたスティーブンソン氏、「30年以上ヴィンテージジーンズのビジネスに深く携わっていますが、今までに同年代のものを目にしたのは、2度のみです。それに比べこのジーンズは驚くほど状態も良く、大変貴重なことから、手に入れられたことを幸運に思っています。歴史的価値からも博物館などへの貸与や売却も考えられるだけでなく、アートのような価値を見出す人々にも関心を寄せてもらっています」。シングルステッチのみで、チェーンステッチマシン、オーバーロックマシン等も使われていないシンプルな作りが見てとれ、「現在の5ポケットジーンズのデザインは、長い時間をかけ改良と進化を重ね完成した機能美です。この一本はその過程が見える、とても興味深い作品です。」

ポケットの裏地には、“The only kind made by White Labor.”と、移民労働者への人種差別と見られる複雑な時代背景の証拠が刻まれていたことにも衝撃が走りました。スティーブンソン氏は売却金額よりもはるかにその価値は高いと言いますが、「ジーンズを発掘する作業は生きるか死ぬかの大変危険な仕事です。命の補償のない場所をくぐり抜けて手に入れた成果と、その命懸けの仕事への敬意を含んでいます」と加えます。

このジーンズを廃坑で発見したマイケル・ハリス氏は、カリフォルニア州オレンジカウンティーを拠点にする画家であり、ジーンズの採掘を趣味としています。長年の研究からジーンズやワークウエアへの造詣も深く、写真集『オールドジーンズ』『American Overalls ワークウエア秘史』2冊の著作に関わっています。これまで各メディアの取材をすべて断っていたというハリス氏より、貴重な解説の機会を得ることができました。ハリス氏は、このジーンズを1890年から1891年のものとであると指摘します。「補強のために銅リベットを取り付けたリーバイス社は1873年に特許を取得し、その期限が1890年5月20日までであることから、それ以前はパッチにpatent rivetedと記していたものを、その後はcopper rivetedと変えました。そのため、これは1890年以降であることが分かります」、またポケット裏地のスタンプに注目すると、「1891年以降のものにカリフォルニア州のステートフェアでシルバーメダルを受賞した一言が付け加えられたものがある中、そのコピーがないこの一本は1891年よりも前のものであると推察できます。ボタンに何も刻印がないことから、社名が刻印されるようになった1893、94年ごろ以前のものであることも示唆しています」。

オークションが行われた「デュランゴ・ヴィンテージ・フェスティバス」の主催者であり、ハリス氏よりこのジーンズを貰い受けた直前の所有者は、探検家/ファッション考古学者、ブリット・イートン氏。『インディアナ・ジーンズ』という通称で広く知られる彼は言います、「本当はこのジーンズを手放すつもりはなかったのですが、デュランゴ・ヴィンテージ・フェスティバスを主催するにあたり、大きな注目を集めるものを出品しようと、ヴィンテージオークションにかけることを決意しました。多くのコレクターやファッションカンパニーが参加していた3日間にわたるオークションで、もっと高額がつくことも予想できました」と言います。

このジーンズの高額購入を決意させたのは、デニムの将来と無限大の可能性を見込んだとスティーブンソン氏は言います、「パンデミックが落ち着きを見せ、アスレジャーブームの落ち込みからデニム業界にはリバイバルの波が押し寄せ、再びジーンズに脚光が当たっています。日本企業をはじめ、製造過程に工夫を凝らし、環境保護への意識を高めたものづくりに注目しています。ジーンズはファッション全体から見ても、サステナブルで多様性に満ちた非常なユニークな存在です。未来を担うZ世代は、ジーンズを買ったり、トレードしたり、クリエイティブな方法で個性を加えたり、自由自在に楽しみながら自分らしくデニムを取り入れています。過去のものづくりの背景を語るジーンズを、未来に生かすことができたら素晴らしいと思っており、科学者や地質学者など専門家による解析を依頼することも考えています」と言います。

左:『オールド・ジーンズ―掘り起こされたジーンズの歴史』マイケル A.ハリス (著)、中村 省三 (翻訳) / 右:『デュランゴ・ヴィンテージ・フェスティバス ・オークション・カタログ2022』

interview and text : Aya Komboo

HP:ayakomboo.com

Instagram: @ayakombooo

INFORMATION
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1495 Beverly Blvd, Los Angeles, CA 90026
+1 424-256-9506 

Instagram:@denimdoctors

Hollywood Trading Company, Santa Rosa, IrregulaR, Stevenson Overallsなどを手掛けるジップ・スティーブンソン氏によるヴィンテージジーンズのショールーム、リペアショップ。このジーンズはセキュリティー上、常に店舗に置いていないものの、予約制で同店で見学することが可能。

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